あけび書房通信
メールマガジン「あけび書房通信」の入退会は、こちらのフォームにメルアド登録お願いいたします。
または、info@akebishobo.comまでご連絡ください。
第62号
「あけび通信」第62号をお届けいたします。 ○-●-○-●【新刊ご案内】堀有伸/著『「ナルシシズム」から考える日本の近代と現在』○-●-○-●https://akebishobo.com/product/narcissism定価 1540円(税込み) 46判 156ページISBN 978-4-87154-205-0 C3036 元首相5人のEU書簡が大問題になったこともあり、https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220204-OYT1T50263/福島県民調査での甲状腺検査の見直しが国会でも質疑されるようになっていますね。https://twitter.com/cdp_kokkai/status/1494241306570530818https://twitter.com/otokita/status/1491311901309300736 山口壮環境大臣は「2021年3月に公表された報告書(UNSCEAR)の中には『被曝した子供達の間で甲状腺がんの検出数が大きく増加している原因は、放射線被曝ではなく、非常に感度が高いもしくは精度がいいスクリーニング技法がもたらした結果』と報告されている」と答弁していますが、甲状腺がんが多発見されているのはスクリーニング効果だけでなく過剰診断であるということまでは認めていません。 過剰診断をもたらし子どもの人権問題、医療の倫理問題であることは、昨夏に出した『福島の甲状腺検査と過剰診断 子どもたちのために何ができるか』(髙野 徹、緑川 早苗、大津留 晶、菊池 誠、児玉 一八/著)https://akebishobo.com/product/fukushima-3でまとめられています。また、『福島第一原発事故10年の再検証 原子力政策を批判し続けた科学者がメスを入れる』(岩井 孝、児玉 一八、舘野 淳、野口 邦和/著)https://akebishobo.com/product/fukushima-2でもこの問題に一章ついやしています。 さらに、コロナやワクチンをめぐるニセ医学や陰謀論、便乗商法とともに放射能に関連する問題にの理解を深めるテーマも盛り込んだ新刊『科学リテラシーを磨くための7つの話 新型コロナからがん、放射線まで』(一ノ瀬正樹、児玉一八、小波秀雄、髙野徹、高橋久仁子、ナカイサヤカ、名取宏/著)https://akebishobo.com/product/restorationでも、この過剰診断の問題について取り上げています。さて、原発・放射能問題というは上記ご紹介した本などで科学リテラシーを磨くことが市民に(とくに原発に反対する運動に)試されている課題だということとともに、私たち(とりあえず「日本人」とくくりますが)の精神構造の問題としてそれを変えていかなければならない課題でもあろうということです。 そうした心理学的あるいは社会病理学的な考察をまとめたものとして、福島県南相馬市の精神科医・堀有伸さんの新刊『「ナルシズム」から考える日本の近代と現代』を『科学リテラシーを磨くための7つの話』と同時発売します。 本書で目的としているのは、<私たちが直面することを避けている、逃してしまった可能性、失った命や富や名声の記憶、知識や経験・節制の不足から曝してしまった恥になるような出来事、取り返しのつかない罪などを意識から排除することなく、それを心の内側に抱えながら「これからの自分たちがどうしていくべきなのか」について、現実的に考えられるようになることです。 その先に私たちの社会の成熟があるのだろうと考えています。> まさに、件の書簡をめぐる問題にも引き付けて考えさせられます。 そして、「社会において合意形成を上手に行えないこと ~東京電力福島第一原子力発電所事故への対応について~」という章があります。 書簡では誤認しかつ稚拙に表現されている「原発事故の健康影響について、どのように考えるか」について、堀さんは次の通り応答しています。 まず、<幸いにして、2011年の事故によって飛散した放射性物質によって引き起こされた放射線被ばくが原因の、発がんなどの直接的な健康影響は軽微だと考えます。>こうした事実認識すら、書簡のトーンもそうですが反原発の一部は容認しがたいのでしょう。ここからボタンの掛け違いが起きるのです。 むしろ重大なのは、<避難生活や地域コミュニティ・地域経済に与えられた打撃による、間接的な健康影響は深刻であった>ということです。 <私は福島県南相馬市で開業している精神科の医師ですから、原発事故が関連する重症のPTSDの患者さんなどの診療を担当しています。原発事故が関係者に及ぼした「心の傷」の影響が広範であることは、深く感じざるをえません。福島県では約2300人が震災関連死と認定され、宮城県や岩手県と比べても突出して多くなっています。調査によれば、震災事故によって避難を行った老人施設や病院で、死亡率の上昇が認められています。原発事故が地域に与えた間接的な健康影響が、大きかったことは明らかです。> 放射線被ばくの直接的影響がなくとも、避難するリスクなどで数千人の震災関連死を招き今なおも精神疾患含めた健康影響がある。そうしたことは元首相の書簡では書かれていないし、実際、反原発の中ではほとんどこのことが語られない。放射能の直接的影響がないと反原発はできないのか?と疑りたくなるくらいに。 さらに、<「政府の行うことは正しい」とする「タテ社会の論理」を逆転させるだけのナルシシズムが引き起こしている問題の例>として、<原発事故後に起きた福島での甲状腺がんの過剰診断の問題>についても触れられています。『福島の甲状腺検査と過剰診断』も紹介されながら、次のように述べています。 <チェルノブイリの事故の後で、科学的に検証された放射線による健康被害は、小児の甲状腺がんの増加と精神的な問題でした。したがって福島の原発事故の後にも福島県内のすべての子どもを対象とした甲状腺がんを見つけるための超音波検査が実施されることになりました。ここには、「政府や東京電力の誤りによって生じた被害を、見落とすことなく見つけ出して指摘する」という意思と、その意思を尊重する姿勢を示したいという行政側の意図が働いていたのだと考えます。その思いには十分に共感できます。しかし結果としてこれは、治療の必要性のない病変を見つけ出し、そのための治療の負担と心理的な苦痛を子どもとその家族に与える「過剰診断」という問題を引き起こしています。検査によって癌であると判断され、手術を受けた子どもが200人を超えているのですから、その被害が軽微であるとは言えません。 この問題の詳細については、参考文献として挙げた『福島の甲状腺検査と過剰診断―子どもたちのために何ができるか』という書物を参考にしてください。このような問題が生じた要因として大きなものが2つあります。1つは、超音波検査の精度が高すぎて、微小な病変でも見つけられるようになってきたことです。もう1つは以下のような事情によります。癌の自然史についての研究が進み、たとえ癌と判断される病変であっても、その成長が極めてゆっくりであるため、一生の間放置しても深刻な害をもたらさないような癌の存在が知られるようになってきました。福島県の子どもに発見された甲状腺がんのほとんどもそのような性質のものだったのです。> よく、放射能による健康被害は何十年もたってみなければ分からないから因果関係を否定できないと言われることがありますが、そういうこととは別次元の過剰診断があるということに、上記にまとめられているように、そろそろ皆さんも理解していただきたいところですね。さらに以下。 <福島の状況を知った上で国際的な機関であるIARC(International Agency for Research on Cancer)は、2018年に「原発事故後であっても甲状腺癌の集団検診はすべきではない」という勧告を出しました。しかし、福島における甲状腺の検査は継続されています。「政府の悪逆を暴く」という大義名分があれば、科学的な知見の積み重ねに基づく指摘を無視し続けてよいのでしょうか。少なくとも、過剰診断という不利益が生じる可能性がある検査を実施するのならば、そのことの説明と、拒否してもそれが許容される雰囲気が必要です。しかし、学校で実施された検診はそのようなものではなかったようです。 「政府批判」のような形でタテ社会の論理に逆らうだけでは、根本にあるナルシシズムの問題は解決しません。福島の甲状腺の過剰診断の問題には、太平洋戦争中の日本のような、「一度決まった路線は、科学的な立場からの指摘が行われようと構わずに、変更されることなく継続する」というナルシシズムの問題がはっきりと現れています。> 『今よみがえる丸山真男 「開かれた社会」への政治思想入門』(冨田宏治、北畑淳也/著)https://akebishobo.com/product/maruyamaで取り上げられている「超国家主義」の「無責任の体系」とも相通じますね。ただ悲劇なことに、「一度決まった路線は、科学的な立場からの指摘が行われようと構わずに、変更されることなく継続する」ということは、件の書簡の問題でも同じことが繰り返されているということです。 本書での堀さんの問題提起は原発・放射能問題にとどまらない、対米従属の安全保障・外交の問題も含んだ日本社会の精神構造がふんだんに考察されていますので、ぜひお手に取って読んでいただきたいです。 あけび書房代表 岡林信一 【3月3日発売予定新刊】■琴天音/著『体内時計にも個性があります』定価 1760円(税込み)46判 212ページISBN978-4-87154-203-6 C2047https://akebishobo.com/product/bodyclock ■一ノ瀬正樹、児玉一八、小波秀雄、髙野徹、高橋久仁子、ナカイサヤカ、名取宏/著『科学リテラシーを磨くための7つの話―新型コロナからがん、放射線まで』定価 1980円(税込み)ISBN978-4-87154-204-3 C3040A5判 184ページhttps://akebishobo.com/product/restoration ■堀有伸/著『「ナルシシズム」から考える日本の近代と現在』定価 1540円(税込み)ISBN 978-4-87154-205-0 C3036 ¥1400E46判 156ページhttps://akebishobo.com/product/narcissism ■冨田宏治/著『維新政治の本質 組織化されたポピュリズムの虚像と実像』定価1760円(税込み)46判 204ページISBN978-4-87154-206-7 C3031 https://akebishobo.com/product/restoration 【3月20日発売予定新刊】■イラク戦争の検証を求めるネットワーク編『イラク戦争を知らないキミたちへ』定価1760円(税込み)ISBN 978-4-87154-207-4 C303146判 226ページhttps://akebishobo.com/product/iraq 【好評発売中】■色平哲郎/著『農村医療から世界を診る 良いケアのために』https://akebishobo.com/product/ruralmedicine定価 2200円(税込み)46判 378ページISBN:978-4-87154-202-9
第61号
「あけび通信」第61号をお届けいたします。 ○-●-○-●【書評ご案内】色平哲郎/著『農村医療から世界を診る 良いケアのために』○-●-○-●定価 2200円(税込み)46判 378ページISBN:978-4-87154-202-9https://akebishobo.com/product/ruralmedicine 「『裏』太郎山通信」に掲載された同主筆の桂木惠さんの書評を転載いたします。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー医療は、より多くの人々の幸せと平和な社会に貢献すべきもの 佐久総合病院医師の色平哲郎先生の最新刊紹介です。コロナ禍のまっただ中にある今、信州の山里や大都市、そして世界中のあらゆる場で多くの人が不安と出ロの見えない閉塞感に包まれているようです。 (それでも人々はルーティンを淡々とこなし、その中にはよろこびや楽しみもしっかりとあるのですが。) そうしたこの時機に刊行された本書は、まさに時宜を得た良書といえます。 小生が一読してまっ先に感じたのは、2022年1月15日、大学共通テストの朝に起きた受験生などへの殺人未遂事件でした。容疑者は 17才の名古屋に住む高校生でした。事件の概要はマスコミで大きく報道されましたので、繰り返しません。 さて感じたことです。およそ現実的ではないかも知れませんが、件 (くだん) の少年が本書を読んでいれば事件など起こさなかったのではということなのです。あるいは、少年の身近な周りに本書のメッセージのいくつかを伝えるような大人がいてくれたら、と感じたのですね。 事件の動機を読み解く大きなキーワードとして、「東大」「医学部」「成績」があげられます。少年が前者の二つを最高に価値のあるものとしてとらえた背景には、それらを保持すれば、今の社会は自己の価値を最高のものとして評価してくれるものだと信じていたからだと推察できます。さらには高い経済的な安定も付加されることも魅力だったのかもしれません。そしてそれらを得るパスポートが「成績」であると考えていたことも伝わってきています。しかし、これらのキーワードは事件を起こした少年だけでなく、世間一般にもほぼ常識としてとらえられています。彼はそれらを得ることが思うに任せないという悲観から自己破減にも繋がりうる犯罪を起こしたことが読み解けます。(この事件に対して少年の通う高校もコメントを出しましたが、違和感がありました。「学業だけがすべてではないという指導をしていたのだが」というものでした。この高校もまた「学業」を上記の三つのキーワードでしかとらえていなかったのでしょうか。) それに対して真っ向から異を唱えているのが本書だ、と感じたのですね。 著者はまず、医学・医療は、「みんなのものであ」り、それゆえ「権威づけやお金もうけに使ってはいけない」という加藤周一のことば(本書P5・・・以下P数のみ)を引用して、医学や医療を人々をより幸せにするための社会的インフラとしてとらえています。別の言い方をすれば、難関とされる大学医学部を経て医師になったとしても、その「受益」は、個人のものでは無く広く社会に還元されなくてはならないということです。 件の少年に、「なぜ君は医師になりたいのか、なぜ東大なのか」という問いを発した親や教師が彼の周りにはいたのでしょうか。著者は、「医者らしく生きていく」のではなく「医者として食っていく」人が多い現実を悲しい目で見つめています(P139)。そのことはいっぼうで、経済格差がそのまま医療格差につながり、果てには命の格差にまでつながっていくという現実があります。件の少年には、さらに続けて「君はどんな医者になりたいのか」「医者になってどういうことをしたいのか」と突き詰めて問うべきだったと思うのです。彼の周りの大人だけを責めているのではありません。日本という国は、医学部に限らず異常に高すぎる大学授業料もあいまって、大学で学ぶことによって得られる知見や技術、ノウハウといったものを全て個人の狭い「受益」の領域に狭めてきました。教育や学間を個人や私企業の「受益」にのみ貶める風潮は、 医学だけでなく今や経済学や法学など広範囲におよんで、社会を蝕んでいます。 例えば、より多くの人々に暮らしの豊かさを保障するはずの経済学は、金儲けの手段としてのみ認知されているようですし、元来公正で平等な社会を実現し、人権保障の砦であったはずの裁判所の中には、政権への「忖度」と裁判官の栄達を最優先したのではと疑いたくなるような判決を出した事例もありました。メディアの世界にも、近年とみにそれを感じるようになった方も多いと思います。小生の長く関わってきた教育の世界でもそうした流れとは無縁では無いでしょう。心したいと思います。 しかし、この「何のためにその職業を選んだのか」「どんな〇〇 (職業や立場) になりたいのか」と最も厳しく問われなければならないのは、或いは私たちが問うべきは政治家だと思うのです。とりわけ政権政党に所属してる政治家やその意を受けて動いている官僚には、よりいっそう糺したいと思うのです。なぜなら、この国で暮らす人々の命とくらし、そして未来を握っているからです。17才少年の刃は、彼らこそ受け止めるべきだったのではと思うのです。 著書の本業は内科医ですが、その興味や研究対象は、社会学から経済学・歴史学から政治にいたるまで縦横に広がります。医学や医療が直面している問題ではあっても、専門領域だけではカバーしきれないし解決の糸口すらっかめないことを、日々の臨床で感じているからです。例えば今目前にある極めて深刻なコロナ禍を収東させるためにも、医療従事者はもちろん政治家や官僚、経済学はもちろん哲学や歴史学の知見も必要とされることを例証しています。筆者が引用しているJ. Sミルの「経済学者でしかない人は、おそらくよい経済学者ではない」 (P9)は、至言です。 著者の勤務する佐久総合病院の究極の目標は、「医療を通じての民主化」 (P140) だといいます。それはまた、創設者であり著者の敬愛してやまない若月俊一名誉院長の目指したものでもあります。戦争の惨禍を知り尽くしていた若月の言葉、「私たちが健康の問題を懸命に取り上げているのは、 それが平和の問題に大きく結びっくからこそである」(P103)は、私たちの胸にも深く響きます。若月名誉院長の名を冠した若月賞を2002 年に受賞したのは、アフガニスタンで奉仕活動中テロリストによって殺害された中村哲医師でした。彼が受賞スピーチで語った「まず生きていなければ病気も治せない」 (P281) は、常に戦禍に晒されている場所で献身的に働いてきたからこその強い心の叫びでした。政権中枢の政治家たちの何人が、この言葉を真摯に聞こうとしたでしょうか。 本書のテーマは直接的には医学や医療に関わるものですが、そこで語られる問題点や解決に向けてのヒントは、普遍性を持っています。糸口のヒントは、 もう一つの「プランB」といえるかもしれません。「プランB」 とは兪炳匡(ゆうへいきょう) 医師の造語(『日本再生のための「プランB」』集英社新書2021) です。今日の大きな社会問題にまでなっている経済格差による不都合な現実を直視し、「日本に住む全住民の衣食住を充足させる」(P336) ための提言です。ちなみに兪炳匡医師は医療経済学者でもあります。著者に薦められて小生も本書を読みましたが、付箋だらけになりました。 さて、コロナ禍による死亡者です。日本政府やメディアはあまり報道していませんが、著者は東アジア・オセアニア諸国の中で突出して多い (P330) と指摘します。理由の一つとして、 日本社会の構造的な欠陥をあげています。それは、「専門家自治」がなく、医療従事者も患者も国家による支配の対象としてしか位置づけられていないという社会のあり様の問題です。こうした国家をトップとする上下関係では、国民の権利や利益は守られないという指摘は重要です。今も起きている 「自宅療養」という名の国家による患者の放置は、すべての国民が等しく医療を等しく受ける権利があるという基本的視点が欠落していたからだといえます。 こうした事態を改善するための責務は、社会全体に帰せられています。国家による上意下達が「専門家自治」を奪い取り、社会全体の利益を損なっているという事例は他にも多々あるからです。その一つが教育です。例えば2022年4月からそれまでの日本史や世界史という科目がなくなり「歴史総合」が新設されるのですが、問題にしたいのはその是非ではなく決定過程です。今回の指導要領改定による教科再編に限らず日本の教育行政すべてにわたって実質的に決定に関わってきたのが中央教育審議会(中教審)です。 同会は「学識経験者」を中心とした文部科学大臣の諮問機関ですが、委員に指名された30名のうち最も多いのが大学関係者です。続いて知事や教育委員会などの行政職、中学校長や高校長などの管理職となっています。驚くことに、小中高で普段生徒に接している教員が一人もいないのです。ここでも「専門家自治」のないところで教育の根幹が決められているのですね。ちなみに中教審会長は第一生命会長です。 「歴史戦」といった挑発的な物言いで植民地支配や侵略戦争の史実を覆い隠し、歴史の捏造までする政治勢力もまた、同種かもしれません。研究者による長期にわたる学問の積み重ねやていねいな史料解読などの学問的成果を一顧だにせず、 国家の力で自己の偏狭なイデオロギーの下に置こうとしているのですから。 著者は所謂旧帝大医学部出身の医師という経歴ですが、決してその属性に寄りかかりません。それどころか誰からも貪欲に学ぼうというスタンスを堅持しつつ必死に「プランB」を模索しています。 そのいっぼうで、読者に対して厳しい「叱咤激励」のメッセージも発しています。「農民の問題は農民自身の組織によって解決する」ことが「基本姿勢」だという若月のことば(P3) を引きながら、眼前の問題はその当事者がまず組織的に動くことの重要性を訴えています。重篤な病気にかかったかのような今の社会に大きな不満と不安を抱えてている人々に向けて、「ではあなたはその解決に向けて何をしようとしているのですか」と問いかけ、座視することを戒めているかのようです。 拙稿の締めくくりに、述べておきたいことがあります。それは、深刻で明るい出ロの見えにくい問題を語りながらも本書の読後感はさわやかだということです。理由は大きく二つあります。まず一つは、著者自身あれこれ迷い戸惑いながら生きているという、いわば人としての弱さを隠していないという点です。そこには、 同じ弱い人間同士助け合っていきましょうという暖かいメッセージも込められています。もうひとつは、若月名誉院長はじめ尊敬し信頼しうる多くの人々との出会いから生まれた確かなオプチミズムを読みとることができる点です。 前述した17才少年にこそ読んで欲しかった、改めてそう感じた次第です。 ※紙幅の都合でここで筆を置きますが、書きたかったことはもっとあるのです。 【3月3日発売予定新刊】■琴天音/著『体内時計にも個性があります』定価 1760円(税込み)46判 212ページISBN978-4-87154-203-6 C2047https://akebishobo.com/product/bodyclock ■一ノ瀬正樹、児玉一八、小波秀雄、髙野徹、高橋久仁子、ナカイサヤカ、名取宏/著『科学リテラシーを磨くための7つの話―新型コロナからがん、放射線まで』定価 1980円(税込み)ISBN978-4-87154-204-3 C3040A5判 184ページhttps://akebishobo.com/product/restoration ■堀有伸/著『「ナルシシズム」から考える日本の近代と現在』定価 1540円(税込み)ISBN 978-4-87154-205-0 C3036 ¥1400E46判 156ページhttps://akebishobo.com/product/narcissism■冨田宏治/著『維新政治の本質 組織化されたポピュリズムの虚像と実像』定価1760円(税込み)46判 204ページISBN978-4-87154-206-7 C3031 https://akebishobo.com/product/restoration 【3月20日発売予定新刊】■イラク戦争の検証を求めるネットワーク編『イラク戦争を知らないキミたちへ』定価1760円(税込み)ISBN 978-4-87154-207-4 C303146判 226ページhttps://akebishobo.com/product/iraq 【好評発売中】■色平哲郎/著『農村医療から世界を診る 良いケアのために』https://akebishobo.com/product/ruralmedicine定価 2200円(税込み)46判 378ページISBN:978-4-87154-202-9
第60号
「あけび通信」第60号をお届けいたします。 ○-●-○-●【新刊ご案内】イラク戦争の検証を求めるネットワーク編『イラク戦争を知らないキミたちへ』○-●-○-●https://akebishobo.com/product/iraq定価1760円(税込み)ISBN 978-4-87154-207-4 C303146判 226ページ イラク戦争開戦日の3月20日発売予定です。 昨年の3月20日に同ネットワークがYouTube上で開催したイベントをもとに、寄稿などを集めて再構成しました。 今年はイラク戦争から19年、来年は20年ということで、今の若者にとっては物心がついていない歴史のお話しになっているので(私がベトナム戦争のことを考えるぐらいのもの)、次世代にこの誤った戦争の意味を伝えるために、1年がかかりでできました。 2009年に民主党への政権交代もあって、小泉自民党政権が支持し憲法違反の自衛隊の海外派遣までしたイラク戦争の検証を求めるチャンスだと、イラク戦争の検証を求めるネットワークが立ち上げられ、私も当初から参加しました。そうした個人的な思いもあって、イラク戦争をテーマにした本は必ず上梓したいと願っていて、出版を実現することになりました。 それも、平和活動家から政治家、ジャーナリスト、NGO、そして当事者のイラクの若者に日本の若者など、反戦平和の思いを次世代にバトンをわたすよう多様な方々それぞれの思いを語っています。もちろん、この大義なき戦争を止めることができず、いまだに検証を果たせていない私たちの責任として、若い世代に負の遺産を残さないよう継承しなければならないですが。 さて、イラク戦争を振り返れば、またもや物議を交わしているEU書簡を出した元首相、https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/77001.htmlとくに小泉純一郎氏の欺瞞・不誠実さを特記せざるを得ないです。放射能デマという点でも許しがたいですが、輪をかけて、小泉氏には「おまゆう」です。イラク戦争支持と同じく、目的のためには嘘をついてもしらを切るところは変わらないのか。 以下、イラク戦争の検証を求めるネットワーク事務局長・志葉玲さんが書かれた本書序章から紹介します。========================== 13 イラク戦争の検証が必要 開戦の大義名分とされた大量破壊兵器は発見されず、報道で確認できているだけでも、現在までに29万人近くの人々が犠牲となり、今なお現地情勢に混乱をもたらし続けるイラク戦争。日本の戦争支持も、見直されるべきです。ところが、当の小泉元首相は、歴史修正主義とも言えるような、事実を捻じ曲げる発言をしています。 2021年3月1日の外国人特派員協会での会見で、中東メディアの記者にイラク戦争支持の是非について質問された小泉元首相は、「イラクが査察認めていれば戦争は起きなかった」などと、開き直ったのです。 「これも一般的に言うと、アメリカはなんでイラク戦争を始めたんだと批難が、批判があったのはわかる。しかし、イラクが査察認めてれば戦争起こんなかったんです。なんで査察を認めなかったのかと。隠してると思ったんだよな、アメリカは。結果、大量破壊兵器はなかったんだけども」(2021年3月1日の会見での小泉元首相の発言) これが事実と大きく異なることとは言うまでもありません。本章ですでに触れたハンス・ブリクス元UNMOVIC委員長の証言にもあったように、イラク側は査察を受け入れていました。また、小泉元首相は、「イラクが査察を認めてれば、国連でも決議してるんだから、受け入れれば戦争起こんなかったんです」とも発言しました。これは、イラクへ大量破壊兵器の査察への全面的な協力を求める国連安保理決議1441号のことを指しているのでしょうが、これのみでは、対イラク武力行使容認決議とはみなされないというのが通説です。2016年に膨大な検証報告書を公表したイギリスの「イラク戦争調査委員会」でも、ジョン・チルコット委員長が「イラクへの軍事行動は、最後の手段ではなかった」「軍事行動に法的根拠があるとは到底言い難い」と、米国と共にイラク戦争を開始した英ブレア政権を厳しく批判しているのです。 ・・・(略)・・・ 小泉元首相が開き直っていられるのは、日本ではイラク戦争の検証が十分に行なわれていないからでしょう。外務省は2012年12月、イラク戦争に関連して「大量破壊兵器情報についての検証」を行ったとして、その概要を公表しましたが、それはA4用紙4枚だけで、報告書全文は公開されませんでした。そもそも、この「検証」は、日本政府がイラク戦争を支持したことの是非自体について検証したものですらないのです。イラク戦争の開戦経緯について嘘をつき、約29万人の戦争犠牲者を愚弄するような小泉元首相の主張は絶対に許されません。今後の日本の外交・安全保障政策への教訓としても、日本としてのイラク戦争の検証はしっかりと行なわれるべきでしょう。========================== 上記の通り小泉氏が嘘を語った<2021年3月1日の外国人特派員協会での会見>は、原発問題についてが主なテーマでした。https://www.j-cast.com/2021/03/02406214.html?p=allhttps://www.youtube.com/watch?v=_2pXbFD18lQ原発に反対を主張しているからといって、イラク戦争への反省がない方を持ち上げるのはやはりおかしいと思わざるをえません。 なお、<A4用紙4枚だけ>で開戦とその支持は間違いなかったと「検証」して終わりにしたのは、民主党政権でした。 元首相らが過去を反省したかしないかともかく反原発を主張するのは(放射能デマを言わなければ)いいけど、数十万人が犠牲となりいまも復興できないイラクの人たちに償い、憲法を否定してまで海外派遣で自衛官をも戦場に送ってしまったことなど、イラク戦争の検証をまともに行わなかったことも反省してほしいところです。 とくに小泉さんは当時の首相として、本当のことを語り過ちを認めるべきです。今年の3月、原発事故3.11から11年、イラク戦争3.20から12年の今、ぜひ手に取っていただきたい新刊です。 あけび書房代表 岡林信一 【3月3日発売予定新刊】■一ノ瀬正樹、児玉一八、小波秀雄、髙野徹、高橋久仁子、ナカイサヤカ、名取宏/著『科学リテラシーを磨くための7つの話―新型コロナからがん、放射線まで』定価 1980円(税込み)ISBN978-4-87154-204-3 C3040A5判 184ページhttps://akebishobo.com/product/restoration ■冨田宏治/著『維新政治の本質 組織化されたポピュリズムの虚像と実像』定価1760円(税込み)46判 204ページISBN978-4-87154-206-7 C3031 https://akebishobo.com/product/restoration ■琴天音/著『体内時計にも個性があります』定価 1760円(税込み)46判 212ページISBN978-4-87154-203-6 C20473月3日発売予定小社に直接注文いただけます。https://akebishobo.com/product/bodyclock 【好評発売中】■色平哲郎/著『農村医療から世界を診る 良いケアのために』https://akebishobo.com/product/ruralmedicine定価 2200円(税込み)46判 378ページISBN:978-4-87154-202-9
第59号
「あけび通信」第59号をお届けいたします。 ○-●-○-●【新刊ご案内】一ノ瀬正樹、児玉一八、小波秀雄、髙野徹、高橋久仁子、ナカイサヤカ、名取宏 著『科学リテラシーを磨くための7つの話―新型コロナからがん、放射線まで』○-●-○-● 定価 1980円(税込み)ISBN978-4-87154-204-3 C3040A5判 184ページ3月3日発売小社に直接注文いただければ2月21日より送料無料でお届けできます。https://akebishobo.com/product/restoration 新型コロナをめぐるニセ医学、陰謀論、フードファディズム、便乗商法について行政や政治家の問題について触れつつ、そうした怪しい情報に惑わさないセンス、またそれらを信じてしまった人たちにどのようにコミュニケーションすることが大事なのかなど、各専門家に書いていただいています。 また、11年目の3.11が近づいていますのであらためて放射能をめぐって、避難のリスク・予防原則の問題、処理水排出問題、甲状腺検査の過剰診断について取り上げています。いまさら放射能の話なんてコロナのことがあるので忘れ去られている頃だろうと思っていましたが、いまだに甲状腺がん「多発見」について差別・偏見を生みかねない問題が起きたりしていますし、https://www.minyu-net.com/news/news/FM20220203-682932.phpALPS処理水の海洋排出の是非をめぐる対立があり、そもそも原発の是非を考えるうえでも健康被害の甚大さは震災関連死の多さ、つまり、原発事故から避難した結果として大量の死者が出たということの考察は、今でもなおされてしかるべきことでしょう。 とくに、『福島の甲状腺検査と過剰診断 子どもたちのために何ができるか』https://akebishobo.com/product/fukushima-3に続いて、いまだに過剰診断を認めず検査の中止ないし抜本的見直しがされない現状について、髙野さんに「過剰診断のメカニズム―「思い込み」と「責任回避」で歪められる科学」と題してあらためて書いていただいています。 あけび書房は左派リベラルに親和的な本を出しているのに、なぜ放射能の問題では左派リベラルに批判的な本を出すのかと疑問を抱く人たちがいるかもしれませんが、それは左派リベラルには放射能の問題でミスリードしまくっている傾向があるからです。科学的見識をきっちりおさえて人権問題として正しい問題提起を本来なら左派リベラルこそがすべきなのに、逆に政治的には右派や原発容認派にお株をとられて墓穴を掘っている状況をなんとか転換したいのです。なによりも過剰診断で実害が与えられている福島の子どもたちの人権を守る必要性に、そろそろ気づいてもらいたいものです。 あけび書房代表 岡林信一 【3月3日発売予定新刊】■冨田宏治/著『維新政治の本質 組織化されたポピュリズムの虚像と実像』 定価1760円(税込み)46判 204ページISBN978-4-87154-206-7 C3031 https://akebishobo.com/product/restoration ■琴天音/著『体内時計にも個体差があります』定価 1760円(税込み)46判 212ページISBN978-4-87154-203-6 C20473月3日発売予定小社に直接注文いただけます。https://akebishobo.com/product/bodyclock 【好評発売中】■色平哲郎/著『農村医療から世界を診る 良いケアのために』https://akebishobo.com/product/ruralmedicine定価 2200円(税込み)46判 378ページISBN:978-4-87154-202-9
第58号
「あけび通信」第58号をお届けいたします。 ○-●-○-●【新刊ご案内】冨田宏治/著『維新政治の本質 組織化されたポピュリズムの虚像と実像』○-●-○-● 定価1760円(税込み)46判 204ページISBN978-4-87154-206-7 C3031 小社に直接注文いただければ2月21日より送料無料でお届けできます。https://akebishobo.com/product/restoration 昨年末には冨田さんには北畑淳也さんとの共著『今よみがえる丸山眞男 「開かれた社会」への政治思想入門』を出してもらいました。https://akebishobo.com/product/maruyamaこれは冨田さんご専門の日本政治思想史の研究成果を一般市民に分かりやすく書いてもらっていて、いわば「本店」の作品ですが、今度は「夜店」というか市民としての政治的義務たる維新とのたたかいについて、参与観察による政治学的分析の本です。 日刊ゲンダイのインタビュー冨田宏治氏が喝破「大阪で維新を支持しているのは貧困層を憎悪する中堅サラリーマン層」https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/298204がかなりバズって注目されていることもあったので、急遽、ここ7年間書きためた論考を再構成してまとめてもらいました。ただ、「おわりに モンスター的集票マシンとどう対峙するか?」は本書書き下ろしで、今夏の参議院選挙と来年の統一地方選挙で、維新とどう対決するか、それもかなり大胆に踏み込んだ提案をされています。いつもはHPで「おわりに」を立ち読みできるよう公開していますが、本書ついてはネタバレではないですが、買って読んでもらう値うちがあるから出し惜しみします。 基本は「不寛容なポピュリズム」に対して、一致する点で共同する「寛容とリスペクトの政治」に習熟し、「大阪市廃止」住民投票で発揮された路地裏を主戦場にした対面的政治対話を展開していく、まさに知的道徳的な「ヘゲモニー」の実践として、地を這うような「陣地戦」でたたかうということです。 いまや日本維新の会は世論調査の政党支持率では立憲民主党を抜いて第2党になっているのですから、帯に書いていますように、まさに「維新政治は大阪だけの問題ではない!」です。今夏の参議院選挙で改憲発議できる3分の2以上を与党と維新に奪われたら、いよいよ国民投票が待ち構えています。冨田さんは各地で講演活動されるそうなので、本書を普及することで、新自由主義と国家主義的改憲を食い止める力にしていきたいです。 あけび書房代表 岡林信一 【3月3日発売予定新刊】琴天音/著『体内時計にも個体差があります』定価 1760円(税込み)46判 212ページISBN978-4-87154-203-6 C20473月3日発売予定小社に直接注文いただけます。https://akebishobo.com/product/bodyclock 【好評発売中】色平哲郎/著『農村医療から世界を診る 良いケアのために』https://akebishobo.com/product/ruralmedicine定価 2200円(税込み)46判 378ページISBN:978-4-87154-202-9
第57号
「あけび通信」第57号をお届けいたします。 ○-●-○-●【新刊ご案内】琴天音/著『体内時計にも個性があります』○-●-○-●定価 1760円(税込み)46判 212ページISBN978-4-87154-203-6 C20473月3日発売予定小社に直接注文いただければ本日より送料無料でお届けできます。https://akebishobo.com/product/bodyclock 3月はあけび書房でいくつか本を出しますので順次ご紹介します。まずは、琴天音さんの『体内時計にも個性があります』https://akebishobo.com/product/bodyclock 人間には<社会生活における時間>と<それぞれが持つ体内時計>という2つの時間軸があるということで、私も大変勉強させてもらいました。 生まれ持った体内時計の傾向(クロノタイプ)に逆らって生活すると健康を損ない、最悪の場合は至ることもあるとのことで、実際、著者の琴さんの次男も睡眠・覚醒相後退障害(DSWPD)による慢性寝不足を原因に自死されています。そうした重い経験も語りつつ、労働や学校の時間といった社会生活を体内時計に合わせるよう改善することなどを提案されています。過労死ラインまで働かされる長時間労働(とくに教員)、子どもの自殺・虐待・不登校といった社会的問題も絡めて、働く人の健康と幸福について睡眠を切り口に考察されています。 コロナ禍で睡眠に一層の問題を抱える人たちが増えているそうですが、QOLを考えるうえで睡眠のリズムを見つめ直すためにもぜひおすすめです。 なお、眠れない人には、『「二桁九九」で眠る 眠れないあなたに』(野崎佐和著)をおすすめします。https://akebishobo.com/product/futaketakuku あけび書房代表 岡林信一 ■好評発売中色平哲郎/著『農村医療から世界を診る 良いケアのために』https://akebishobo.com/product/ruralmedicine定価 2200円(税込み)46判 378ページISBN:978-4-87154-202-9