第51号
「あけび通信」第51号をお届けいたします。
○-●-○-●【新刊ご案内】『今よみがえる丸山眞男 「開かれた社会」への政治思想入門』○-●-○-●
冨田宏治、北畑淳也/著
四六判 214ページ
1760円(本体価格1,600円+税)
ISBN978-4-87154-200-5 C3031書店では日米開戦80年の12月8日発売予定ですが、
電子書籍版を昨日から先行発売し、小社でも紙書籍の注文を受け付けています。
こちらからどうそ。
https://akebishobo.com/product/maruyama
出版を記念して昨日、著者の北畑淳也さんが主宰するYouTubeチャンネル「哲学入門」に冨田さんとあけび書房代表の岡林も登場しました。
録画がこちらから視聴できます。
https://www.youtube.com/watch?v=_VYUkt8p5rg&t=2s
12月8日にも同チャンネルで出版に関連して冨田さんの網野善彦論が放映されますので、ぜひこれもご視聴ください。本書の意義と構成については北畑さんの「はしがき」を、この本を出すことになった経緯は冨田宏治さんの「あとがき」をご覧ください。
小社の上記サイトから立ち読みできます。
付言しますと、私がじゅんちゃんのYouTubeチャンネル「哲学入門」
https://www.youtube.com/channel/UCa6oNOr1S251sHs8rile4Rw
を知ったのはつい最近ですが、YouTubeでは右翼系のチャンネルが席巻している中で、リベラル系というか、ビジネス右翼をおちょくるエンタメ要素がありながら、それも個人で毎日配信してコンスタントに万単位の視聴数を続けていることに、とても素晴らしいことだなと思っている矢先に、旧知の冨田さんがこの番組に常連しているのを知って、これは本にしなくてはと思った次第です。
それも、丸山眞男です。
丸山さんって、「戦後民主主義」「戦後啓蒙」「市民社会派」というカテゴライズで偉大な知識人として多大な影響を与え続けていた反面、左右から非難の対象でもあったんですよね。
最近では歴史修正主義者やら極右からは、丸山は日本を全否定する「自虐史観」の典型として叩かれまくっているようですが、他方で左派的な「ポストモダン」からは、「近代主義者」と言うレッテルで誤読・歪曲で叩くことがネタのような頃もあったようで。
しかし、そういう手垢のついた丸山叩きにくみせず、かといって丸山さんを神格化せずに、その営為をまずは原典に基づきつつ彼の問題意識を内在的に理解し批評することを通じて、没後四半世紀の今、歴史的に評価しつつ今日直面する諸問題を考える一つの視座、あるいは参照点として、丸山さんの政治思想を学ぶ意義はおおいにあると思うのです。
とくに、丸山さんが「超国家主義の心理と論理」で解剖した「無責任の体系」の意味をかみしめて、今日のコロナ禍での政治家の無責任をふりかえれば、日本社会というのは戦前から、いや古くは彼の「古層=執拗低音」論のように、古代からずっと変わっていないところがあると実感するのではないでしょうか?
そして本書では、<「開かれた社会」への政治思想入門>とサブタイトルをつけているように、民主主義社会の前提となる個人の尊厳や多様性が尊重さられる「開かれた社会」へと、日本が本当に「開国」していくために大事であろうことを、丸山さんの思想的営為を探りつつ、今日のラディカルデモクラシー、コミュニケーション論、公的領域=政治の復権という現代政治思想の焦眉の課題とも結びつけています。
そして、「入門」としているように、丸山さんのことはもとより、政治思想や歴史的事実の基礎知識についても注釈をふんだんにつけて、初学者にも学びやすいよう、かつ、文体も平易に分かりやすくするよう努めました。
著者のお二人について、世代の大きな違いがあることも意義深いです。
そして私はお二人の中間にある世代ですから、なおさら、世代的な媒介を意識しています。
冨田さんは原典に忠実に内在的な理解を徹底する丸山研究者であり、丸山さんのアクチュアリティをとても分かりやすく語れる第一人者であろうと、私は思っています。
そして、北畑さんは物心ついた時には丸山さんは存命しなかったわけで、過去の丸山批判・賛美にこだわらず、若い気鋭の論客として、丸山さんの文献を今日的に自由に読み解いていらっしゃる。
丸山さんをカリスマ化せず、かつ、彼の作品の奥深さを発掘する知的作業を通じて、政治学的認識から多様な現実から「可能性の束」を見出す、そうした醍醐味が本書にあろうかと考えています。
ご両人も言われているように、丸山さんは一刀両断して「食えない人」なのだ。
どう料理して食えるようにして、その味わいを咀嚼するのか。
そのように思考し実践するために、政治思想または政治学を学ぶことを市民の皆さんもできるような機会を広げることが大事だろう。
そんな思いで、私は本書を出すにいたりました。
あけび書房代表 岡林信一