おわりに ―「日本版タックスヘイブン」を許さない

 パナマ共和国にあるモサック・フォンセカ法律事務所(タックスヘイブンなどでの企業設立支援を扱う法律事務所)から漏れた機密文書は「パナマ文書」と呼ばれています。この文書を入手した南ドイツ新聞と「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が、2016年4月3日、世界各地のタックスヘイブン(租税回避地)に設立された法人約21万社に関する内部資料の調査結果を公表しました。
「パナマ文書」の中で、アイスランドのグンロイグソン首相がタックスヘイブンを利用して資産隠しをしていた疑惑が浮上し、4月5日に同首相が辞任を表明するなど大騒ぎになっています。

 安倍首相は第183回国会における施政方針演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」と述べました(2013年2月28日)。目指すどころか、今でも日本の大企業や富裕層は手厚い租税特別措置(優遇税制)によって、税負担が著しく軽減、ないしは完全に免除されています。日本の現状は、日本自体が白昼堂々と大企業や富裕層の税負担を減免するタックスヘイブンであると言えるのです。
 財界は「自由」の名のもとに、資本の自由、市場の自由、貿易の自由、タックスヘイブンなど地球的規模での不公正の拡大を図っています。この「自由」は世界の圧倒的多数の民衆の生存権と対立するものです。このような基本的矛盾が長く続く道理はありません。
 道理のない体制の展望に未来はないのです。未来に展望があるのは、巨大企業体に支配、搾取されている民衆の運動とそれを支える理論です。

 税法(国税)、税条例(地方税)は議会で決まります。税の支出も議会が決めます。政治の中心課題は、本書で繰り返し述べましたが、税金を応能負担原則に則って集め、その集めた税金を福祉のために使うという憲法の考えを実現することだと言っても過言ではありません。
 あるべき税・財政の確立を主張することはできますが、実際の税・財政は国家権力の手のなかにありますから、国家権力を動かさなければ、非権力者(民衆)の主張は現実のものとはなりません。

 本書を読んでいただけば、安倍政権がいかに憲法感覚を身につけていないかを、思い知らされるでしょう。しかし、そのような政党に票を入れる国民の憲法感覚が最後に問われます。憲法と国民生活のギャップをうめる運動は70年近くを経過していても、まだ序の口にすぎません。
 日本国憲法前文は、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」とうたっています。この立場からすると庶民増税勢力(一方で大企業、大資産家減税をおこなう「日本版タックスヘイブン」)は退場してもらわなければならないのです。

 悪税法を作らせないためには、そのような法を作る議員を国会に送らないことです。国、地方を問わず選挙において税制に関する意思表示をすることが決定的に重要です。筆者はこのことを〈税民投票〉と名づけました。
 人々が選挙権を有効に行使し続けるなら、応能負担の原則に基づく税制が確立され、租税は福祉・平和のために使われることになります。わが国の経済力をもってすれば、世界一の福祉大国になる可能性を秘めています。

 これからの課題は、私たち自身が憲法の要請する民主的税制の魂である応能原則を真剣に考えるということです。マスメディアであれこれと税制について発言する論者の多くは、応能原則の魂を知らない人です。
 本書が民主的税制への舵取りになることを願っています。

 ●「おわりに」の追記 ―ひどすぎる「日本版タックスヘイブン」


 先にも書きましたが、タックスヘイブンがいま大きな問題となっています。そのことについて、加筆しておきます。
 タックスヘイブン(tax haven)の日本語訳は「租税回避地」です。意図的に税を優遇(無税または極めて低い税率)して、企業や富裕層の資産を誘致している国や地域のことです。税逃れや資金洗浄(マネーロンダリング)の温床となっています。
 タックスヘイブンは、モナコ公国、サンマリノ共和国、英国領のマン島やジャージー島、カリブ海地域のバミューダ諸島、バハマ、バージン諸島、ケイマン諸島、ドバイ(アラブ首長国連邦)、バーレーン、香港、マカオ、シンガポールなどの国々でおこなわれています。

 大企業や富裕層にとっては日本もタックスヘイブンです。
 先に記しましたが、安倍首相は第183回国会における施政方針演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」と述べています(2013年2月28日)。冗談はほどほどにしてほしいものです。目指すどころか、今でも日本の大企業や富裕層は手厚い租税特別措置(優遇税制)によって、税負担が著しく軽減、ないしは完全に免除されているのです。
 租税は国家が国民の財権を強制的に取り上げるものです(財産権の侵害)。財界は「自由」(新自由主義)を誇示し、資本の自由、市場の自由、貿易の自由を強調しています。大企業や富裕層は、自由権法理(国家権力に干渉されない権利)を振りかざし、財産権の自由(課税逃れの恩恵)を手に入れるのです。この優遇税制は庶民の重税と生活の犠牲のうえに進められます。

 日本の大企業は、各種の租税特別措置(優遇税制)によって、実際の税負担率は低くなっています。
 優遇税制によって巨大商社が実際に支払った税負担は、法人実効税率が35%から40%であった2010年度から2014年度までの5年間において、三菱商事(7.9%)、伊藤忠商事(2.2%)、三井物産(マイナス0.7%)と「ただ」同然です(税制評論家・税理士の菅隆徳氏調べ。『税制研究』69)。
 また、個人の所得税負担率は、所得が1億円を超えると下がります。その要因は株の売却・配当益に対する税制です。2003年度税制改定によって、上場株式の配当や売却益所得については、いくら所得があっても、わずか10%(所得税:7%、地方税:3%)課税としました(証券優遇税制の採用)。この10%の税率は2013年12月末で適用期限が切れ、2014年1月から、税率を20%(所得税:15%、地方税:5%)に戻しました(その他に東日本大震災復興特別所得税が2013年から25年間所得税額に2.1%が上乗せされました)。戻したと言っても20%税率(租税特別措置法37条の10)自体が金持ち優遇であることには変わりありません。

 以前おこなわれていた申告書公示制度は、所得税、法人税、相続税の申告書が提出された場合、その申告書に書いてある税額、課税対象金額が一定額を超えるものについて、税務署がその納税者の住所・氏名、税額などを一定期間公示するものでした。この制度は1950年に導入されたもので、公示によって第三者のチェックを受ける効果を期待したものでした。
 自公両党は公示制度を2006年度税制改正によって廃止しました。廃止により、政治家や巨大宗教法人の法人税(収益事業)に係る申告所得金額などはまったく知る手立てはなくなりました。
 公示制度は、所得税は所得税額が1000万円超、相続税は課税価格2億円超、贈与税は課税価格4000万円超、法人税では所得の金額4000万円超、が基準となっていました。
 公示制度は「国民の知る権利」の保障です。自公は公示制度を廃止して高額所得者である政治家や巨大宗教法人の「税逃れ」を探知する術を葬り去ったのです。タックスヘイブンを助長する公示制度の廃止は一刻も早くやめるべきです。

 タックスヘイブンは地球的規模での課税からの自由に他なりませんが、この「自由」は世界の圧倒的多数の民衆の生存権と対立します。このような基本的矛盾が長く続く道理はありません。
 道理のない体制の展望に未来はありません。未来に展望があるのは、巨大企業体に支配、搾取されている民衆の運動とその運動を支える理論です。

          2016年5月     浦野 広明