はじめに ―憲法違反の不公平税制

 
 税に関して発言する人はたくさんいます。しかし、そのほとんどが的外れな内容で、国民生活を楽にすることに役立ちません。それは日本国憲法の観点を欠いているからです。国民本位の税制は、税の支払い方と税の使い方において憲法の精神を生かすことによってのみ実現します。

 まず、税の支払い方について憲法が考える原則は、応能負担原則(応能原則)と呼ばれます。応能原則は各人が経済的な負担能力に応じて税負担をするという憲法14条の平等原則の、税負担における考えです。応能原則は、憲法14条に加え、13条(個人の尊厳・幸福追求)、25条(生存権)、29条(財産権)などの理念を活かすことで、実現します。そして、12条で「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と記しているように、国民自らが、「不断の努力によって」、主体的に「つかみとる」原則です。果報は寝て待てとはいかないのです。応能原則は、国税、地方税、社会保険料(使途が特定される目的税の一種)など、すべての租税に当てはまる原則です。
 つぎは税の使い方(使途)の原則です。憲法は、全世界の国民が平和のうちに生存する権利を有することを確認(前文)し、国権の発動たる戦争の永久放棄・戦力不保持および国の交戦権の否認(9条)、生存権(25条)をうたっています。このように平和と生存権を重視している憲法の下での税金使途原則は「全税が福祉社会保障目的税」だということです。ですから、国民が「納税の義務を負う」(憲法30条)のは、払った税金が平和に生存するために使われることを前提にしているのです。

 消費税の税率は、2014年4月以後5%(消費税4%+地方消費税1%)から8%に上がりました。年間所得が200万円と1000万円の人が、100万円の消費をして、8%の消費税を8万円負担(仮定)した場合、所得に占める消費税負担割合は、前者が4%、後者は0.8%となります。このように消費税は、高所得者に比べて低所得者に重い負担を強いますから憲法14条(法の下の平等)に違反します。
 こんな応能負担原則に反する弱いものいじめの税金は、やれ財政再建のため、社会保障のためとつくろっても、国民の支持を得るどころか、批判の声が絶えることはありません。増税勢力にとって最大の障害は国民の批判です。批判をかわすために、「福祉」、「少子・高齢化」、「年金財源」、「社会保障財源」、「財政再建」などを持ち出します。

 1997年に3%から5%に消費税を増税したときには、その後の景気悪化と大企業減税などで全体の税収は増税前よりも少なくなり、財政はますます悪化しました。2014年4月の消費税増税をみても、消費の落ち込み、実質賃金の低下など、景気の悪化が明らかです。内閣府が発表した国民経済計算の確定値では、2013年度の家計貯蓄率はマイナス1.3%です。貯金に回すどころか、取り崩さなければ生活がなりたたないのです。金融広報中央委員会(日本銀行内に所在)の調査では金融資産が全くない世帯は31%と前年の26%から急上昇しています。国民経済計算がマイナスとなったのは、現在と同じ条件で統計を取り始めた1955年以来初めてですから、事実上、第二次世界大戦後初めてといえます。
 これに限らず2014年は、貧困と格差の拡大を示す統計が相次いで発表されました。厚生労働省の国民生活基礎調査では、年収122万円以下の世帯が全世帯の16.1%を占め、過去最悪となっています。パートや派遣など非正規で働く人は2000万人を超え、年収200万円以下の貧困層は8年連続1000万人以上に達しています。

 安倍政権は2015年度税制「改正」で、「消費税率(国・地方)の10%への引上げ等の施行日を平成29年4月1日とする」、「附則第18条第3項を削除する」と定めました。消費税の増税を決めた法律の附則18条3項は、「消費税率の引上げ施行前の経済状況を勘案して税率引上げを停止する」という規定です。弱者をいじめる消費税を野放しにしたら、世間一般の人々は生きることができません。それゆえ、いままで、消費税法という憲法違反の法の中においてさえ、国は附則という国民の生活を営む権利を保障する規定(憲法25条)を置いていたのです。2015年度税制「改正」は附則の削除という憲法25条を投げ捨てる改定をしてしまいました。
 そこで登場したのが「軽減税率」という目くらましの制度です。公明党の山口那津男代表は、同党が主張する食料品を主とする「軽減税率」について8%に据え置くことが「一つの基準になる」と述べていました(BSフジ2014年12月4日)。
 外国の食料品の税率は、イギリスが0%(標準税率20%)、ドイツが7%(19%)、フランスが5.5%(19.6%)です。日本における「軽減税率」の本質は食料品に8%を課税するというものですから、世界で一番高い「過重税率」に他なりません。山口公明党代表は、軽減税率について「国民の痛税感を和らげるという視点は、極めて重要な政策的配慮だ」と述べました(公明新聞2015年10月23日)。しかし、軽減税率なんてまったくの茶番です。なぜなら、軽減税率は国民の消費税負担を和らげることとは全く関係がないからです。本章で詳しく述べますが、そんなことは消費税の仕組みを見ればすぐに分かることです。

 消費税は、消費者が負担しますが、納税するのは事業者(企業)です。企業の消費税納税額は(課税売上×消費税率−課税仕入×消費税率)で計算します。「軽減税率(複数税率)」を導入すると、(課税売上×消費税率)が8%と10%の2段階となり、8%が適用される事業者の消費税納税額が少なくなるだけです。
 軽減税率は国民の痛税感を和らげることとは全く関係がありません。
 飲食料品の製造原価は、材料費、労務費(工場人件費・雑給など)、経費(外注費・電力量など)から構成されます。製造原価が上がれば8%の消費税率にしても物価は上がります。消費税率が2014年4月から8%に上がり、商品やサービスの価格が一斉に上がりました。天候要因などの影響が大きい生鮮食品を除いてみても、練り物やソーセージ、お菓子などは値段据え置きで内容量が少なくなり、マヨネーズや砂糖が上がるなど値上げは続いています。
  総務省がおこなっている家計調査(2015年11月分)では、2人以上の世帯が使ったお金は、物価変動の影響を除いた実質で前年同月より2.9%減っています。
 増税や円安に伴う食品などの値上がりに、賃金の上昇が追いつかず、家計の実質的な購買力は下がっています。消費はそれ以上に冷え込んでいます。2017年4月からの消費税再増税への警戒感もくすぶり、消費の足を引っ張っています。
 市場を支配している飲食料品関連大企業は、製造原価の値上げを理由に物価(独占価格)値上げをおこなって、10%消費税負担以上の利益を確保します。さらに、8%の軽減税率により消費税負担が軽減する恩恵を得るのです。
 安倍政権の軽減税率の正体は、消費者が「内消費税8%」の価格表示を見て、飲食料品を安く買えたという幻想をいだかされる反面、飲食料品関連大企業が利益を上げる構図ですから、すぐに化けの皮がはがれ始めています。
 つぎに登場したのは、消費税税率10%引き上げを「延期」するのではないかという観測です。「延期」論は安倍内閣の経済政策の破綻により、このまま増税すると国民の暮らしも経済も破綻することが明らかだから出てきたものです。
 安倍首相は公式には「リーマン・ショックや大震災のような事態でもない限り」、増税は実施すると繰り返しています。しかし一方で、内外の有識者を招き、国際金融経済分析の会合を重ねています。有識者の人選は首相官邸がおこなっており、安倍政権が世界の「有識者」のお告げだからとして、2016年7月の参院選対策で、増税延期をするそぶりを見せるかもしれません。
 安倍政権は、さきに述べたように2015年度税制「改正」で附則の「経済状況を勘案して」という条項を削除するという蛮行をしたのです。この誤りを認め、増税延期でなく、きっぱり中止をすべきなのです。

 安倍政権の進める戦争法(安保法制)と税制「改正」はいずれも憲法違反という点で同根です。憲法を投げすてる自公政権に対して、憲法の生存権や応能負担原則を運動によってつかみとるという新たな時代を迎えています。
  本書によって、正確な税のあり方を知ってもらえることを願っています。

      2016年5月     浦野 広明